「炎の人 ゴッホ小伝」 19日 大阪公演を観て
この劇で描かれるゴッホとゴーギャンと言えば、三谷幸喜の「コンフィダント・絆」を思い出します。そこでは創作上の物語として二人が登場していましたが、この「炎の人」では、史実にそってゴッホの生涯を展開させていきます。
最初の場面は、思いがけず炭鉱のストライキから始まっていました。知らなかったのですが、ゴッホは画家になる前はキリスト教の伝道師をめざしていたのですね。貧しい人々のために献身的につくしていたことが描かれています。この作品を書いた三好十郎は、プロレタリア劇作家からスタートしたということもあり、ゴッホを通して見ようとしたのは、その日の食べ物にも事欠く労働者や、娼婦、売れない画家という社会の奥底で生きる人々の姿でした。そしてゴッホが描きたかったのは、そんな「土にまみれたジャガイモ」のような貧しくても、つつましやかで逞しい人々でもありました。
しかし彼は結局、貧困や失意の中でパリに向かいます。パリで待ち受けていたのは、ロートレックやゴーギャンなど印象派の画家達。それに日本の浮世絵の影響も受け彼は、様々な技法をこらした絵を完成させていきます。だれかれなく議論をふっかけ、昂揚した気分に変わったことが演技からもよくわかりました。しかしそんな絵だけにしか打ち込めず、自分の考えを曲げないゴッホは「めんどうくさい人」としか観られず、絵の才能も認めれることはありませんでした。純粋な芸術だけではものにならず、社交性や受け狙いの要素を持ち合わせていないと大成しないということでしょうか。このあたりからゴッホの苦悩が始まります。
第2幕は、ゴッホの絵が舞台いっぱいに映し出され、展覧会のような雰囲気で始まります。混乱したパリからはなれ、南仏のアルルでの生活が始まったとき、ゴッホらしいうねるような独特なタッチの絵が次々と誕生します。しかしここでも、絵を楽しみのために描こうとするゴーギャンと、禁欲的に絵に打ち込もうとするゴッホは対立してしまいます。自分の心の中の悪意とも戦わねばならなくなったゴッホは、ついに精神に変調をきたしてしまうのです。自分の「ひまわり」の絵を切り裂き、ナイフで自分の耳をきりつけるあたりは、鬼気迫るものがありました。
生涯、1枚しか絵が売れず、最後は自殺で果てたゴッホ。何のために絵を描きづけたのか知るよしもありませんが、エピローグで語られた次の詩は胸を打ちました。
貧しい貧しい心のヴィンセントよ!
同じ貧しい心の日本人が今、
小さな花束をあなたにささげて
人間にして英雄
炎の人、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホに
拍手をおくる!
飛んできて、聞け!
拍手をおくる!
今度、ゴッホの絵を見る機会があったら、彼の無垢の魂を少しでも感じ取れたらと思います。
ゴッホを演じられた市村正親さん。内省的なブリュッセル時代、どん欲的なパリの時代、そして、充実と苦悩があやなすアルルの時代、それぞれのゴッホをたくみに、しっかりと表現されていたと思います。ゴーギャン役の益岡 徹さん。かもしだす雰囲気がまさにゴーギャンでしたね。三役をこなした荻野目慶子さん。女性の生き様が鮮烈でした。
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