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2009年6月28日 (日)

映画「Dear Doctor」を観て

 西川 美和脚本・監督作品。

 この作品は僻地の診療所に勤める医者と、村人達との温かいふれ合いを描いたよくあるヒューマンドラマでは決してありません。またストーリーは単純であっても、心にストンと落ちるわかりやすいドラマでも決してありません。

 この映画は人間心理の多重性を、叙情に流されることなく、映像だけの手法を使ってシニカルに描いていきます。僕はこの映画のテーマは「錯覚」ではないかと思いました。愛とか美とか、善とか幸福とか、人間が素晴らしいと思っていることは、つきつめると何一つ確かなものはなくて、そう思いこんでしまっている錯覚なのではないかと。

 この作品では、「命」さえもそうであるということを感じさせられる場面もありました。介護老人に救命を施そうとする医者に対して、「もうそのへんで」と諭す家族、死を告げられ握りしめた手がほどけた嫁。見ている方も錯覚にとらわれていることに、はっとさせられるシーンでした。

 しかし最後、きれい事では済まされないことに気づいている中で、それでも主人公は潔く自分を捨てて、癌患者とその家族が最も幸せになると思う道を選ぼうとします。いいとか、悪いとかではなくて、こんなことができてしまうのも人間なんだということを監督は言いたかったのではないでしょうか。
 
 診療所の医師役となった笑福亭鶴瓶、映画「母べえ」では吉永小百合との共演が見事でしたが、今回は八千草薫と差し向かっての演技に味わい深いものを感じました。特に最後の白衣を振って別れを告げるシーンは胸がつまりました。研修医役の瑛太、軽いキャラでしたが映画のテーマを引き立てる演技だったと思いました。

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